ヤマモト:今までで一番時間をかけて、アルバムを作れました。曲作りがと言うよりは、いわゆるレコーディングやミックスといったエンジニアリング的な部分で、かなり充実した時間の使い方ができたと思っています。僕らのテーマとして、「いいメジャー感」を出そうということで、音も、ジャケットも、MVもすべて含めて、どれだけメジャー・デビューをいいものに、面白いものにできるかということを考えながら制作をしました。ここは、今までとの違いですね。
みこ:レコーディングに関して一番大きく変わったことは、コーラスワークです。これまで以上に、かなりの時間をかけて、2声、3声とコーラスを入れた部分も多くあります。ボーカルに関しても、インディーズの2作品からは随分と成長できたと感じていて、「同一人物なの?」というくらい、過去の作品とは、歌が大きく変化していると思います。
澤:この作品では、複数のアレンジャーさんと一緒に作れたので、自分の中だけではない要素もたくさん取り入れることができました。音自体も、いろいろと新しい面を出せたと思いますし、リズムに関しても、いろんなパターンを入れられましたね。
ヤマモト:「いいメジャー感」の話しにもつながりますが、これまで作った中で、“ふぇのたすの代表曲”と言われるものがいくつかあって、そのすべての要素を持った曲を1曲作りたいという話をしていたんです。そうして作った曲が、1曲目に収録されている「今夜がおわらない」です。これがまさに、自分たちの中での「いいメジャー感」だと思ったし、音楽的にも、僕らがやりたい80’sやニューウェーブ、エレクトロポップを、より分かりやすく形にできたと思っています。
みこ:“This is…”と言うと、少しニュアンスが違うかな。
ヤマモト:“メジャーふぇのたす”っていう感覚ですね。
みこ:このタイミングで、メジャー・デビュー曲を出すなら「この曲だ!」っていうイメージが、私の中にありました。前作(『胸キュン’14』)をリリースした後、次にどんな曲を作ろうかと考えた時に、頭に浮かんだことを、まだボンヤリとした言葉でしたけど、(ヤマモト)ショウさんに伝えたら、まさに「これだ!」っていうデモが送られてきたんです。その時は、さすがに驚きました。もう、想像を超えるくらいの曲で、「これならメジャー・デビューのリード曲にできる」と思いました。それと同時に、私が歌うことで、この曲の力が弱くなるのは絶対に嫌だと思って、緊張もしました。「私がちゃんと歌わなきゃ」って、心してレコーディングに挑んだことを覚えています。
ヤマモト:1stアルバム(『2013ねん、なつ 』)に「タイムトラブル」っていう曲があるんです。これは、僕らが2012年の夏に出会って、ふぇのたすを始めようと怪しげなスタートをした時……“怪しげ”というのは、元々は僕と澤が一緒にやっていて、そこにみこが加わったんですけど、実は会った翌日に、「私、たぶん無理です」って電話が来て(笑)。
みこ:「一緒にできません」って(笑)。
ヤマモト:そういう、「大丈夫か!?」っていう意味での、怪しげなスタートだったんです(笑)。でも僕は、みこの歌で面白い音楽が作れると思ったから、「これなら一緒にやりたい」と彼女を納得させられる曲を作ろうと考えて、そうしてできたのが、「タイムトラブル」だったわけです。だから僕的な“This is the ふぇのたす”は、「タイムトラブル」なんですよ。その一方で、1stアルバムのリード曲には、「スピーカーボーイ」が選ばれて。この曲は、「こういう音楽がやりたい」と言うよりも、「ふぇのたすの新しい音楽になっていくだろうな」と感じた曲だったんです。「それじゃあ、この2曲が持つ要素をひとつにまとめた曲を作ったらどうだろう?」ということを、その時に話しました。
みこ:私的には、最初に提示された「タイムトラブル」を歌った時、「この人達と一緒にやっていけるかも」と心が動き始めたんです。でもまだ、ちゃんとやろうという決心はできていなくて。その後に、「スピーカーボーイ」を聴いて、「これはやった方がいい」と思いました。だから、この2曲の間には確かな違いがあって、その“いいとこ取り”ができれば、メジャー・デビュー1作目に相応しい、自信を持って歌える曲にできると考えたんです。この2つがあれば“最強”だって。
ヤマモト:だからある意味で、僕らの原点回帰でもあるんです。
澤:すごくいい曲だと思いましたよ。だけどその分、ドラム入れるのが難しそうだなって、プレッシャーがすごかったです(笑)。
ヤマモト:(笑)。まあ僕も、作るプレッシャーがあったしね。それぐらい緊張感がある方が、作っていて楽しいんですよ。
みこ:「ここが正念場だ!」っていう。
ヤマモト:そうそう。僕らがいつも話していることは、まさにそういう内容で。「今、自分たちって、こういう状況だよね」「きっと、こういう風に思われているよね」「じゃあ、こういう曲を作ったら、きっと面白いんじゃないか?」っていう風に、ある種のプレッシャーをかけながら作っていきました。
ヤマモト:JUNO-DiやGAIAなど、ローランド・シンセはいろいろと使いましたよ。
みこ:自宅で仮歌を録る時も、私はJUNO-Diを使っています。これがないと、仮歌をショウさんに送れないんです(笑)。
ヤマモト:JUNO-Diを、オーディオ・インターフェースとしても使っているんですよ。レコーディングやプリプロで歌を録る時も、JUNO-Diをパソコンにつないで、ピアノの音を鳴らして音程を確認しながら、仮歌を録ったりしています。だからみこさんは、JUNO-Diの1台だけで、録音までカバーしているんです。僕に関しては、ギターもVG Stratocaster G-5の1本だけです。
ヤマモト:この1本だけを持っていけば、アコースティック・ギターの音も出せますから、ライブですごく便利なギターですよね。アルバムもこれでレコーディングすれば、同じ音がライブでも再現できますから。ミニ・アルバムで、アコースティック・ギターらしき音が聴こえたら、それはVG Stratocasterで弾いた音です。
澤:ふぇのたすからです。最初に買ったのは、TD-20KX-Sでした。
ヤマモト:ちょうど、ふぇのたすの活動をスタートする直前に買って、デモ作りに使っていました。そして、ふぇのたすを始めるにあたって、僕は音楽性がどうこうよりも、みこの歌を最大限に活かすには、電子音楽にいこうと考えたんです。そうした時に、「そう言えば、V-Drumsがあるな」と思って、じゃあライブで使おうという発想でした。まだ、ライブでV-Drumsをメインで使っているバンドもいないし、それで澤に、「明日のライブからV-Drumsを叩いて」って電話して(笑)。
澤:こうなる予感は、していましたけど(笑)。実際に、ライブやレコーディングでV-Drumsを行うようになって、もちろん生ドラムとは感覚的に違う部分もありますけど、ライブに関して言えば、曲中で音色を変えられたり、PAさんにお願いしなくても、自分でエフェクトをかけられるという点は、V-Drumsならではの特長ですよね。あと、EQだとかも、会場の特性に合わせて音作りができるので、これは非常に助かっています。
ヤマモト:音色面以外にも、ステージでの中音(演奏者がモニターする音)を小さくしたいということも、V-Drumsを導入した理由のひとつなんです。みこの歌が一番モニターしやすい環境を作りたくて。そうすることで、音楽的な幅も、だんだんと広げられたと思っています。
ヤマモト:まさに最近、大幅にシステムを変えたことがあって。僕らはベースも同期で鳴らしていますが、他のシーケンス音と一緒にモニターから鳴らすのではなく、ステージ上のベースアンプから、ベース・トラックを鳴らすように変えました。そうすることで、V-Drumsだけでなく、ベースもリズムの基準にするようにしたんです。
澤:会場によりますが、基本的には、キック、スネア、ハイハットの3点を個別にPAへ送って、残りの音はマスター・アウトから出しています。
澤:そうです。こうすると、モニター環境も整えやすいんですよ。あと、V-Drumsのミックス・イン機能はとても便利。僕は、同期を鳴らすオーディオ・インターフェースのヘッドホン・アウトを、V-Drumsのミックス・インに入れているんです。ミックス・インの音は、マスター・アウトから出ないように設定できますから、こうすることで、僕はシーケンサーから出すクリック音を聴きながらプレイできるわけです。ちょっと話が細かいすぎますかね(笑)。
ヤマモト:確かに、ライブ会場でも、たまに聞かれますよ。「ライブでV-Drumsを使いたいんだけど、どうやっているんですか?」とかって。
みこ:それに、みんなすごく叩きたがるよね。「1度叩かせて!」って。誰かしら、常に叩いてる。もう、アトラクションみたいになってますよ(笑)。私もやってるもん。
澤:仲のいいバンドマンとか。むしろ、ドラマーじゃない人たちの方が、叩きたがるよね。
みこ:思い切り叩いてもうるさくないし、ヘッドホンをすれば、みんなに聴かれずに叩けるから、下手でも“申し訳なさ度”がすごく低い(爆笑)。私も、ゲーム感覚で練習しています。
ヤマモト:それにプリプロの時だとかに、ブースではなく、ドラムをコントロール・ルームに置けるっていうのは、実用面でもすごく便利なんです。
みこ:曲によって、かなり表情が違いますよね。歌録りに関しては、OKをもらっても、気に入らなかったら、私は絶対に歌い直すんです。たとえピッチやリズムが合っていても、歌った時の心情がイマイチだったら、もう1回、歌わせてもらいます。
ヤマモト:たいていの場合、歌い直したテイクの方がよくなるよね。
みこ:そうなんですよ。やっぱり、何かが違うんですよね。
みこ:歌い始めた頃は、まだピッチやリズムを合わせるということ自体がどういうことなのか、それすらよく分からなくて。だから逆に言うと、ニュアンスのことしか考えていなかったんです。それに、ピッチやリズムにものすごくこだわったとしても、歌が上手な人って、他に山ほどいるじゃないですか。たとえばカラオケでも、すごくピッチが正確な人はいますよね。そういった人たちと私が張り合っても、意味がないと思ったんです。じゃあ私は、私にしか歌えない歌を歌おうと思ったところからスタートしました。だから、ニュアンスに関しては、歌い始めた頃から一貫して大事にしている部分なんです。それに加えて、人前で歌うようになってからは、ピッチやリズムのこともだんだんと分かるようになってきて、最近は、いろんな要素が少しずつ揃ってきたという感覚です。
澤:僕の場合は、打ち込みを始めたのもふぇのたすからなので、そういった作業面は、随分と成長できたかなと思っています。とにかく最初は、クオンタイズも知らなくて、1音1音、マウスでタイミングを直していたくらいで(笑)。
ヤマモト:一度、みんなで集まっている場でそれをやっていて、「え?何やってんの?」って(笑)。
澤:[Q]キーを押したら、「あれ?揃った!?」って(笑)。
ヤマモト:どうりで、ドラムのデータが届くのに、すごく時間がかかるなと思っていたんですよ(笑)。ただそれ以上に、V-Drumsを使い始めたことで、音に対する理解度は、かなり成長できたんじゃないかなって思います。いわゆる生ドラムしか叩かない、普通のドラマーのままだったら、知らなかった音色はたくさんありましたよね。
ヤマモト:そうですね……2012年の夏に、最初のデモを作った頃と今とを比べたら、やっぱり成長したと思いますよ。それこそ、ふぇのたすを始めた時点では、見様見真似で打ち込みを始めて、そこからだんだんと曲を作れるようになってきて。何が成長したかと考えると、とにかくこの2年半で、たくさんの曲を作ってきたということに尽きると思います。ふぇのたす以前も、バンドでいっぱい曲を作ってきましたけど、その何倍も、この2年半で作りましたから。2人が知らないボツ曲も、山のようにありますしね。
みこ:私が歌を入れて、発表していない曲も、ものすごくあるんです。
ヤマモト:その経験は、確実に僕らの”実”になっているかなと感じています。
澤:『PS2015』は、ぜひ1枚を通して聴いて欲しいですね。ミニ・アルバム全体で1つの作品として聴けるような長さにもなっていますし、たとえば車を運転しながら聴いたりしても、楽しんでもらえると思います。楽器面では、曲ごとのドラム音色、シンセ音色に注目してみてください。
ヤマモト:先ほども触れましたが、ローランド・シンセをたくさん使っているので、同じ楽器を持っている方は、コピーできますよ(笑)。ただ僕らは、プリセットの状態から相当手を加えて作り込んでいるので、どれが何の音というわけではないんですが、曲作りをしている人であれば、「この音色は、あのシンセの音かな?」って考えながら聴くのも、面白いんじゃないかと思います。V-Drumsもそうですし、僕らはいろんな楽器をたくさん使うのではなく、ひとつの楽器を突き詰めて、時間をかけて音作りしていくので、どれだけ突き詰めたか、そこを聴いてもらいたいですね。そういう意味だと、実は過去の作品で使った音も、また使っているんです。ただ、それらはまったく同じ音ではなく、さらにブラッシュアップさせているので、そこを楽しんでもらいたいですね。
みこ:オフィシャルのYouTubeチャンネルで、「ふふふ」と「今夜がおわらない」の2曲が聴けますので、とにかく一度聴いてもらって、いいなと感じたら、ぜひミニ・アルバムを買ってください!(笑)